「女王陛下のお気に入り」

あらすじ:アン女王を意のままに操り、絶大な権力を握る女官長・サラが仕切る宮廷に、サラの従妹と名乗るアビルゲイが現れる。上流階級から陥没して生活に困窮した彼女はサラに頼み込み、召使いとして雇ってもらうことになる。ある日舞踏会の夜、図書館に忍び込み本を読んでいたアビルゲイは、ダンスホールを抜け出して駆け込んできたアン女王とサラが友情以上の親密さを露にする様子を目撃する。

 

 という感じの(主観)ドロドロ百合でした。とてもよかった。おおまかな流れは史実のwikiに載ってるのでそれで見てくれれば…。

 ずっと一人ぼっちで病気も患い、自由の利かない寂しい女王アンと、その女王の寵愛を取り合う強く賢いサラと、野心を静かに燃やすしたたかなアビルゲイの奇妙な三角関係。安易に「腹黒」とは括れず、各々が生きていく上で立場を勝ち取るために必死というのがにじみ出ていてよかった。と同時に三人とも自身の中の寂しさとか辛さとかを正直に共有することが出来ていれば、もっと違う関係にもなれたのでは…という想像も膨らみます。(「宮廷の中に良心なんていらない」と言い切っている時点でその道が本当になるのはありえないんですけども)

 日本語題は「女王陛下のお気に入り」だけど原題は「THE FAVOURITE」で要は「誰が誰のお気に入り」なのかがふわっとしているから、色んな見方が出来るのがいい。そう、この映画、誰もが誰かのお気に入りになりたがってるんだよなぁ…。

 映像が本当に綺麗で、装飾品の豪華さはもちろん、自然光のみで撮影しているからかまるで絵画のようでうっとりするんですが、内容は初っ端からえげつない下ネタやブラックジョークのオンパレードで本当に全年齢向けでいいのか????と思うほど(セックスシーンが割とがっつり入ってたりする)で、その映像と内容の落差がすさまじく、外見が豪華絢爛であればあるほど中身の滑稽さが浮き彫りになっていく様が、宮廷そのものの在りかたを皮肉っているようで唸ってしまった。この映画の分類としてはコメディらしいけど納得と言えば納得。

 監督曰く、「宮廷は自分の存在を小さく感じたり、見失ったりするほど広くて、音が響き渡る環境を自由に使えることが重要」らしく、アングルや撮影方法や音響にものすごくこだわっているのが分るので、そういう美術的な視点でもめちゃくちゃ楽しめる映画だった。

 個人的にはアビルゲイが好きなんですけど、「どんな手段を使ってでも自分の生きる道を確保する」という女が好きなんで…強い女好き。最初は馬車の中で乗り合わせた見ず知らずの男に「おかず」にされたのを嫌悪感あらわにしてたのに、自分が上にのし上がるためには好きでもない大臣と結婚し、初夜を手こきで済ますというこの変化が彼女の心情の変化を表していていい…。常に周囲に注意を払い、聞き耳を立て、吸収して利用できるものは全て利用していくようになる…。

 「幸せになりたい」という普遍的ともいえるテーマを、戦時中、しかも実権を握る欠点だらけの不完全な女たちという圧力鍋のような場所に設置することで、こんなにも吹っ飛んだものができるんだなぁと感動した。とてもいい「上質」な映画だった。

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